家運の挽回
幸吉はそれから又暫くの間、弟達の寢息を聞きながら、襤褸を繕ふ母親と默つて向ひ合せて夜なべに精を出すのであつた。乏しい中にも母親が、それだけは毎晩缺かさない佛壇の燈が、ぢぢと音をしてあはれに消える頃は、夜嵐ががたごとと戸を搖つて、寒い風が土間から吹き上げて來る......
かうした心掛に立脚した、家運の挽回といふ常に止む事のない念は、みじめな目に遇ふ程煽りたてられ、艱難が烈しければ烈しい程強いものになつて、三十年の年月をまつ黒になつて燃えつゞけた。彼の弟達二人がまた、彼ほど敏活ではなかつたけれども、心を合せて自分達を泥沼のやうな貧困の中から拔き出すのに協力したので、今ではともかくも兄弟が一つづつの店を持つて、町の一流二流どこにはまだ遠く遠く及ばないにしても、その家族が多い事と、(弟達もそれぞれ嫁を迎へて、皆子福者であつた。それだのに彼はその長女に婿まで取つた。彼の方針は、飽迄も一家に働き手を殖す事にあるらしい。)兄弟揃つてなりふり構はず働く事とで、一寸藝あそびの一つもするのを伊達と心得てゐる町の壯丁仲間からは相手にされなかつたかはり、昔氣質の人達からは感心な若者達だと思はれて來た。
